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監督と美術スタッフが語る 誕生秘話と美術へのこだわり
昨年(2004年)7月28日にオープンした“ひきもどし.COM”は、サイトが立ち上がるやいなや、3日で5万件というアクセス数が殺到。あまりの大混乱ぶりに、急いでサイトをクローズしたという逸話を持つ、謎めいたサイトだ。

実はこのときのサイトは、『有限会社ひきもどし』という架空の会社風の作り。経営理念、サービス内容、ひきこもり診断、お客様の声といった、企業サイトにありがちなコンテンツを取りそろえ、リアルでユニークな作りがユーザーを惑わせ、思わぬ反響を呼んでいたのだ。そうした一風変わったプロモーションを仕掛けたのが、本作の監督・脚本を担当する畑泰介さんだ。

この映画ではほかにも、印象的に登場する“絵”や、大杉漣さん演じる浮浪者の衣装などにもこだわりを見せる。その畑監督と、実際に絵を手掛けた藤芳兄弟の弟・藤芳幸太郎さんに、『有限会社ひきもどし』誕生秘話と、美術へのこだわりについて話をお聞きした。
『有限会社ひきもどし』場面
『有限会社ひきもどし』
有限会社ひきもどしの社員として、ひきこもりの紀美子を担当する京介は、彼女をひきもどす方法として、体にペイントすることを考えつく。写真は絵の具の準備をしている京介(右)と紀美子(左)。

企業のサイトっぽいリアルな作りにアクセスが殺到!
畑泰介監督
畑泰介(はた・たいすけ)
幼少時より自主映画を製作。インディーズムービーフェスティバルなど、数々の映画祭で入賞。アートも手掛けており1996年のパルコ・アーバナートでは準グランプリに輝く。

“ひきこもり”の人を社会に“ひきもどす”ことを専門に請け負う「有限会社ひきもどし」。そもそも、こんなヘンテコな会社を舞台にしたアイデアを思いついたキッカケは?

監督:まずは、世の中にひきこもりがたくさんいること。それと、ぼく自身、口下手で言いたいことも言えなくて引きこもりなんじゃないかって感じていて。部屋にひきこもっている人と自分との間に、あまり差がないんじゃないかと思ったことも理由です。

昨年アップした“ひきもどし.COM”は、すごくインパクトがありましたが?

監督:本当にヤバイっていうくらい話題になってしまったので、今はまったく同じサイトを見ることはできませんが、すごく面白い作りでした。企業のページっぽく、理念や概要があるのは言うまでもなく、携帯のパッケージプランの説明と同じように、ひきもどしのプランも“○○コース”“□□コース”と書いてあって、2か月間一遍に使うと何割引になるって書いてあったり。あと、“兵糧攻め”とか“扉破壊”という具合にひきもどしの定番サービスを動画で説明していたのですが、これも人気がありました。この動画は、今の公式サイトでも見られるので、ぜひ覗いてみてください。

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藤芳兄弟の絵にはひきもどせる力があった
映画のなかで、北野井子さん演じるひきこもり女性をひきもどすアイテムとして、絵が象徴的に使われていますが?

監督:元々、絵が好きなんですよね。大学時代には美術研究会にいて、パルコのアーバナートという美術祭で準グランプリをとったこともあります。この映画も、絵ありきで、映画に登場する絵を描いてくれた藤芳さんとは友人を通して知り合いました。最初にお兄さんとお会いし、その時に絵を見せてもらったんですが、見た瞬間、スゲェ〜と(笑)。パワーがあって、色や構成のバランスもとれている。何より本作では、絵を見てひきもどらないといけないのですが、藤芳兄弟の描く絵にはそれがあった。

藤芳さんは畑監督に会って、どんな印象を?

藤芳:兄が最初に会って。ぼくはその時ヨーロッパを旅行中で、帰ってきたら、そういう話になっていた。それで話を聞いたら、絵が重要な役割をはたすということで、面白そうだなと。監督の印象は、自分のイメージする監督像とは違うんだけど(笑)。でも、タフだし、パワーがありますよね。
左から藤芳太一郎さん、藤芳幸太郎さん
藤芳兄弟
左:藤芳太一郎(ふじよし・たいちろう/兄)、右:藤芳幸太郎(ふじよし・こうたろう/弟)。「Fujiyoshi brothers」として2000年ころより数々のイベントや展覧会で作品を発表する。
→ 「藤芳兄弟」公式サイト
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主人公の上達具合に合わせてタッチを変えた絵作り
藤芳兄弟が描いたイメージ画
藤芳兄弟が描いたイメージ画。映画のなかでは、北野さんの手のひらに描くシーンのためのもので、花をモチーフに60枚くらい描いたという。この絵を額装して、オークションに出品予定。

絵のイメージを膨らませていく上では、どんなアプローチを?

藤芳:イメージを広げるために、とにかくたくさんのイメージ画を描きました。花のイメージ画は全部で60枚くらい。難しかったのは、絵を描いていくにつれて、主人公のうまさも変わっていくところ。最初に書いた絵と、あとのシーンの絵ではタッチが変わるという想定ではじめているので、微妙にずらしていくのが大変でした。

映画では、北野井子さん演じる紀美子の手やうなじに直接描いていますが、あれは藤芳さんが現場で描いたと聞いています。大変でしたか?

藤芳:大変っていうよりも、まだ寒い時期の撮影だったので、描いているこちらよりも、描かれている北野さんが寒いだろうなって。なので、なるだけ早く描いてあげようと(笑)。

この企画にかかわってみて、感じたことは?

藤芳:あらためて絵には力があることを痛感しました。人の心を揺さぶる何かが潜んでいるんですよ。

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浮浪者の衣装は綿密な調査のたまもの!?
監督もまた、絵は狙い通りの効果を上げたと話す。さらに、もう1つこだわったのが大杉漣さん扮(ふん)する“巨匠”と呼ばれる浮浪者の衣装。

監督:沢崎愛という、この映画の衣装担当と一緒に銀座を回ったんです。なぜ銀座かっていうと、浮浪者がいっぱいいるから。理由は、いい飲食店があって、築地も近いこと。銀座の浮浪者のなかには、いいものを食べ過ぎて糖尿病になった人がいるという噂もあるくらい。調べてわかったのは、昼間は築地にいて、夜は銀座に行くという流れがあること。

そうしたリサーチを経て、さらに資料にまとめた上で、この衣装は作られた。

監督:浮浪者って、必ず自分の居場所をもっていて、昼間はいなくても、夜はその場所に帰ってくるんです。で、その居場所居場所によって、どういう浮浪者が住んでいるのかをチェックしたり。あと、オシャレな浮浪者も本当にいるんですよ。それらを全部写真に撮って、パワーポイントで企画書を作って、大杉さんや沢崎さんと一緒に打ち合わせをしながら、役柄と衣装を作っていきました。

(テキスト・撮影:編集部)
『有限会社ひきもどし』場面
『有限会社ひきもどし』の1コマ。大杉漣さん扮(ふん)する“巨匠”と呼ばれる浮浪者の衣装は、徹底的なリサーチをもとに作られた。この帽子もオークションに出品予定。

企画・編集:キッチュ
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